私は貝になりたい
制作年度:2008年
監督:福澤克雄
始めの方はどうしても「バラエティーの中居くん」から頭が離れなかった。
何せ毎日のようにTVで宣伝のために出ずっぱり。
そのどれもこれもがお笑いバラエティー。
これはかえってよろしくないのでは?
毎日をただ普通に生活している小市民を描きたかったのだろうが、
張り上げた声やお調子者風な表現がバラエティーと重なってしまうのです。
元々アイドルだのジャニーズだのに反感を持っている人はもとより
純粋に映画を楽しみに来た人にも
『下手、所詮はアイドル』
という結論を余計に引き出させている気がします。
私も頭の中でバラエティーの中居くん→豊松に切り替えるまでは足もとが危うい薄い内容に見えてしまっていました。
しかし、頭を切り替えてからはじっくりと作品に浸ることが出来ました。
やはり本職ではないので演技については絶賛とまではいきませんが彼が自然に豊松として呼吸しているのが伝わってきました。
内容はとにかく心に重く鉛を詰められたようにやりきれないものでした。
『復讐の連鎖』
上官は我が国を焼け野原にしたB29の戦隊を忌々しげに睨み付け涙を滲ませた。
我が同胞を殺した憎き敵。
不時着した敵兵にやり場のない憎しみが向けられる。
彼らも戦争という悲劇に駆り出された者たち。
怒りを個人に向けてはいけなかったが、収まらない。
報復というトリガーを引いてしまった日本軍。
それは敗戦後に戦犯を裁くという報復によって返ってきた。
豊松は只、使われるだけの道具。そこに意思は無かった。
米兵を殺したいと心の底から望んでいたわけではない。
「俺たちは馬や牛と同じなんですよ!」
鞭をあてられ痛い思いをしながらも、命令を聞かねばならない。
そうしないと生きていけないから。
役立たずとみなされたら、その先には死しかない。
「嫌な時代に生まれ、嫌なことをしたんです」
豊松と同じ房になった大西が呟いた言葉のなんと悲しく重く響くことか。
かつてこの腕に抱いていた息子。
一度も抱いたことのない娘。
こんなに近くにいるのに、隔てた金網は小さな指先がわずかに通るだけ。
その指先に口付けるだけしかできない我が身。
「どうして、なんで俺が!」
只、平凡な毎日を愛する家族と過ごしたかっただけ。
身に過ぎた高望みをしたわけじゃない。
誰に仇なすことをしたわけでもない。
自分の罰とは一体なんなのか?なんの咎で死を賜るのだ?
戦争という大きな波に翻弄されて崩された平凡な幸せ。
妻も子もささやかな幸せすら奪い取る人間なんかに、もう生まれ変わりたくなんかない。
深い深い海の底。海上の大波などに脅かされることもない貝だったなら
こんなにも辛く、苦しくなんかなかっただろうに…
この作品を所詮はアイドル主演映画だからと斜めに構えたまま見ていては勿体ないです。
まずはアイドル中居を頭から追い出して豊松という一人の平凡な男の姿をスクリーンで追ってください。
迎える死に納得できないまま、一歩一歩13階段を上っていく男の無念の背を見つめてください。
あらゆる悲劇を飲み込んで尚、変わらない美しさを湛えた海の映像。
その深い海の底へ沈んでしまいたいと願ったちっぽけな命を見つめてください。
きっと心に響いてきますから。
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